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労働条件の変更

事前に権限を明確化 権利濫用になってはダメ

 企業は,経営状態の悪化,不景気等の事情により,労働者の労働条件を変更する必要が生じることがあります。企業が労働条件を変更するには,どうすればよいでしょうか。@労働組合と労働協約を締結する方法,A就業規則を変更する方法,B労働者の個別的同意を得る方法,C職能資格等級の引き下げや人事権の行使による降格等による方法等があります。

 労働条件は,企業と労働者との間の利害に直結しますから,濫りに労働条件を変更することは,労働者との信頼関係を失わせ,ひいては労働者の労働意欲も減退させるおそれがあります。労働者の労働意欲を減退させることは,企業の利益にはなりません。

労働条件を変更するには,いずれの方法によっても,労働基準法,男女雇用機会均等法,最低賃金法などの法令に違反してはなりません。就業規則は,労働協約に反してはなりません(労働基準法92条1項)。

特に,労働条件を変更する場合,後日,労働者との間でトラブルにならないように,労働者に対し,変更の必要性,合理性,相当性を十分説明するべきです。さらに,万一,労働者との間で労働条件の変更が有効か否か,について訴訟になった場合に備えて,変更の必要性,合理性,相当性を証明できるように準備しておくべきです。

労働協約には,規範的効力があります。規範的効力とは,労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となり,無効となった部分は,基準の定めるところによるとする効力である。(労働組合法16条)。判例は,労働協約によって,労働者の労働条件を不利益に変更することを認めています。なお,判例によると,「特定又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたなど」の場合は,規範的効力が否定されるおそれがあります。

企業としては,まず,労働協約によって,労働条件を変更するようにするのがよいです。労働協約によって,労働条件を変更することができない場合は,就業規則によって,労働条件を変更するべきです。

確かに,使用者は,原則として,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできません(労働契約法9条)。しかし,以下の要件を充たせば,就業規則によって労働条件を変更することができます(同法10条)。すなわち,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,@就業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度,A労働条件の変更の必要性,B変更後の就業規則の内容の相当性,C労働組合等との交渉の状況,Dその他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであることが要件です。

例えば,就業規則によって,成果主義賃金制度を導入する場合には,導入すべき差し迫った必要があるか,賃金の支給額が減少または増加する労働者の割合,賃金の減少または増加の程度,成果の判定方法等に基づき,合理性があると認められるかを十分検討するべきです。

なお,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については,就業規則の定める基準に達しない労働条件を定めるものでない限り,就業規則によって変更されることはありません。従って,労働契約において,安易に労働条件を変更しない旨の合意をしておくと,就業規則によっても変更できなくなるので,注意するべきです。

さらに,労働者との個別的同意によって,労働条件を変更する方法をとった場合,就業規則で定めた労働条件を下回る場合は,その個別的合意は,無効となるので,あわせて就業規則も変更する必要があります。

労働者の個別的同意を得る場合は,書面により同意を得ておくべきです。同意の有無をめぐってトラブルを防ぐ必要があります。さらに,企業は,労働者の自由かつ真意に基づく同意を得るように努めるべきです。例えば,労働条件の変更に同意しない場合は,解雇するという告知をすることは,労働者とのトラブルを誘発しますから,決してしてはなりません。

事後的に労働者との個別的同意をするよりも,労働契約の内容に,使用者が労働条件を変更する権限を定めておく方が,労働条件を変更するのが容易です。ただし,その場合でも,労働条件の変更が権利濫用になってはならないように注意する必要があります。

労働条件の変更は,労働者の生活基盤に直結します。したがって,企業は,労働者とのトラブルを回避するべく,労働条件の変更の必要性,合理性,相当性を十分に説明し,納得を得るように努めるべきです。