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懲戒処分

権利濫用で無効の恐れ 委員会設け慎重に決定

   企業は,労働者が企業秩序を侵害した場合,企業秩序を維持するために,労働者に懲戒処分をする必要があります。もっとも,懲戒処分を濫りに行うと,労働者の意欲を減退させ,逆効果になるおそれがあります。したがって,企業秩序を侵害するおそれのない人材を採用し,採用後は企業秩序を維持するよう教育することが先決です。しかし,企業秩序の侵害が発生してしまったら,懲戒処分をすることを躊躇するべきではありません。なぜなら,懲戒処分がなされるという現実的可能性が労働者による企業秩序の侵害に対する抑止効果になることが期待できるからです。また,手続に則った懲戒処分をせずに,冷遇をすることにより事実上の制裁をすることはパワハラになるおそれがあります。

判例によると,「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。」

懲戒の種別としては,@戒告(将来を戒めるが,始末書の提出を求めない),A譴責(始末書を提出させて将来を戒める),B減給,C出勤停止,D懲戒解雇などがあります。

 謝罪や反省の記載を求める始末書は,あくまでも従業員の自由意思に基づいて提出されるべきであり,強制するべきではありません。なお,業務命令により,事実経過の報告としての始末書を従業員から提出を求めることはできます。

 減給は,1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず,総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法91条)。

 出勤停止中においては,賃金を支給しないこと,勤続年数に参入しないこと等を就業規則に定めることができます。しかし,異常に長期間の出勤停止は,無効になるおそれがあります。

 懲戒解雇に伴って,退職金の一部または全部を支給しないという扱いを就業規則に定めることができます。ただし,退職金の不支給までも正当化するだけの重い懲戒事由が必要です。

懲戒事由としては,例えば,@経歴詐称,A職務懈怠,B職場規律違反,C業務命令違反,D私生活上の非行などがあります。

経歴詐称が懲戒事由の対象になるには,重要な経歴の詐称に限られると考えます。重要な経歴詐称は,信頼関係の前提を破壊します。従って,最終学歴について,高い学歴を低く詐称することも懲戒事由になります。

職務懈怠は,労働義務の債務不履行にとどまらず,職場規律に違反するか,職場秩序に混乱をもたらす程度であることが必要です。すなわち,無断欠勤,遅刻,早退も頻度,回数が著しいことを要します。

職場規律違反には,例えば,窃盗,横領,背任,暴行などの犯罪や部下の不正行為を黙認する行為,セクハラ,パワハラなどがあります。

業務命令違反が懲戒事由となるためには,前提として,  業務命令が有効であり,かつ,業務命令に服しないことの正当性がないことが必要です。

判例は,私生活上の非行であっても,「企業秩序に直接の関連を有するもの」,または「企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるがごとき所為」は,懲戒事由とすることができるとします。

 懲戒処分の要件としては,以下の点が必要です。@予め就業規則において,懲戒の種別および事由を明確に定め,周知させること。A新たに定められた懲戒規定を過去の行為に遡及的に適用しないこと。B同一の懲戒事由に対して,二重に懲戒処分をしないこと。C判例によると,「懲戒当時,使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情のない限り,その存在をもって当該懲戒処分の有効性を根拠付けることはできない。」D懲戒処分の種類,程度は,平等に取り扱うこと。E懲戒処分は,懲戒事由及びその他の事情に照らして相当性があること。F懲戒処分は,適正な手続に従ってなされること。例えば,就業規則に,本人に弁明の機会を与えることを定め,弁明の機会を与えること。ただし,「本人が出頭しない場合は,弁明の機会は不要とする。」と定めるのがベターです。弁明の機会を与えることにより,労働者から懲戒処分の無効を理由に訴訟を提起されるリスクが軽減します。

懲戒事由に該当するとしても,「当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は,無効となります。」(労働契約法15条)。したがって,就業規則の懲戒規定が有効であっても,個別の懲戒処分が権利濫用として無効となるおそれがあります。そこで,企業は,懲戒処分をするには,懲戒委員会を設け,懲戒委員会において合議をし,慎重に決定をするべきです。